朝日 祥之

  • 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
    国立国語研究所
  • 時空間変異研究系 准教授
  • 朝日 祥之
  • 1997年
朝日 祥之

英語の勉強も留学も遊びも、とにかくいろいろ経験したのが関西外大です。

 関西外大では、勉強も遊びも仕事も、いろいろと経験させてもらいました。IESプログラム一期生として、英語学概論、英語史などの専門科目を英語で受けるなかで、高い英語力を身につけることができました。堀井令以知先生の言語学、ソーヤー先生の英語史、フェンガー先生の英語学特殊講義、ファラン先生の英文学特殊講義、梶田純子先生のスペイン語などで英語学・英文学、言語学、ラテン文化を学んだのもよく覚えています。

 イギリスに交換留学で出かけたのも思い出です。滞在先のシェフィールド・ハーラム大学では、現在の専門である社会言語学を学びました。英語学の授業では留学生であることを理由に厳しい指導を受けました。ただ、期末試験の結果を受けて、担当教員が「何かの機会に使ってほしい」と推薦状を書いてくださったことは、今の私の支えにもなっています。

 こう書くと、学生時代は勉強ばかりしていたという印象を与えかねないのですが、この他の思い出もたくさんあります。特にIESプログラムのクラスメイトとの思い出は今でも大切にしたい財産です。たしか私の家が溜まり場になって、一週間以上も寝泊まりをする人がいたり、終電が終わった牧野駅の辺りで友人と缶ビールを片手に語ったりしたのを覚えています。

 国際交流課でアルバイトをしたのも思い出です。留学業務の現場で留学生の世話をしたり、提携校との学生交流の記録を整理したりするなど、貴重な経験をさせてもらいました。

日本語の仕組みに迫っています。

 私の専門は社会言語学です。社会言語学とは日々の生活で使われる言葉に着目して、その使われ方に潜む規則性を話し手、場面、地域などと関連付けながら解明することを目指します。普段何気なくしている「お喋り」も研究の対象となります。

 私が勤務している国立国語研究所では、日本語を対象として行う国立の研究機関としては唯一のものです。2004年4月から勤務しています。現在所属しているのは「時空間変異研究系」と呼ばれるところです。日本語の歴史、社会、地域にみられるバラエティに関する研究を行うところです。方言学、日本語史、社会言語学の専門家が勤務しています。

 私の研究テーマは日本語話者で構成される移民社会における方言接触・言語接触です。これまで国内外のさまざまな場所をフィールドとして調査をしてきました。国内では、神戸にあるニュータウン、南大東島、北海道など、海外ではサハリン、ハワイ、サイパンなどです。現地でフィールドワークを行い彼らの使う日本語に見られる特徴について分析を行っています。

 研究対象は主に日本語ですが、日本語に特化しているわけでもありません。 修士号を取得した英国エセックス大学大学院では、世界各地の言語を題材とした研究事例を学びましたし、現在も国際会議等で研究者ネットワークを構築しています。論文執筆はもちろんですが、その研究者とのやりとりには関西外大時代に培った英語力が活かされています。英語というツールを使って専門である言語学の研究成果を発信しています。
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探求心を持って大いに悩んでください。

 自分自身が設定した研究課題に取り組み、その成果を学界・社会に対して発信していくことが私のビジョンです。社会言語学の抱える問題に寄与する成果を一つでも多く出すことが私に課せられた使命であると思っています。

 研究者を目指す人であれば、どの分野でも自分自身の関心を学問としていかに探究するかが問われます。ただ勉強ができればいいわけではありません。自分の関心の正体を見つけるために、自分自身と徹底的に向き合います。

 言語研究では、研究対象となる言葉についての関心を見つけることになります。研究者によりその関心は実にさまざまです。その関心は、例えば実際の言い方と「こう言うと思う」言い方との間にズレがあることが挙げられます。自分自身を指す「私」を例にすると、頭の中では「わたし」と言うと思っても実際は「あたし」と言っている人は少なくありません。言語研究では、自分が実際使っている言葉を観察すること、そのズレ方も大切にされます。

 在学生のみなさんは自分の好きな道を選ぶ権利があります。それを選ぶ喜びと責任を十分に味わってください。悩む人も多いと思いますが、悩むべきことです。もし、みなさんの頭について離れない何かがあれば、きっとそれが進むべき道です。その瞬間を見逃すことのないよう、その正体が見つけられるよう、日々の学生生活を満喫してください。

掲載:2010年12月
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